東海科学機器協会の会報

No.348 2013 冬号

記念講演会

実行委員 高木 裕明

 当協会創立60周年記念講演として東海旅客鉄道(株)代表取締役副社長の森村勉様をお迎えし「東海道新幹線から超伝導リニアまで」と言うテーマでご講演頂きました。前半部分は東海道新幹線の車両開発、地震対策、鉄道構造物の大規模改修についてお話しいただき、後半部分で話題の超伝導リニア新幹線の最新情報についてお話し頂きました。


(講演要旨) 
 先ず車両開発においては、現在新型車両N700Aへの切り替えを開始しているが、すべて新型車両で置き換えるとすると10年掛かってしまうので、並行して現行のN700型を改造することにより3年で全てをN700Aにしていく方針。新型車両はAの文字が大文字で表記し、改造車両は小文字のAを使っている。改造点はブレーキ能力の向上(地震時により早く停止させる為)と定速走行装置(フィードフォワードで自走中の路線データやブレーキ性能、空力性能を自己判断し自動的に定速走行させる機能)の導入である。

 昭和62年の国鉄民営化から今日までのJR東海の歴史はスピードアップとアクセスィビリティーの向上であった。当初270キロ走行車は1時間に1本しか無かったが現在は全ての車両が270キロ走行している。平成15年に品川駅を開業したことにより周辺住民のアクセスタイムが短縮され、品川駅に着いてからのフリークエンシーが向上したことにより航空機との競合にも優位性が保たれている。

 東海道新幹線の特徴は①安全性、安定性、②大量輸送、③高速輸送、④環境との調和である。安全性については、現在まで死亡事故ゼロであり、安定性は現在の平均遅延時間は0.5分である。大量輸送の面では現在のダイヤは1日336本運行しており、夏季シーズンは最大400本運行と言う世界でも類例の無い高速鉄道である。又、環境問題は開業当初騒音問題で訴訟を起こされネガティブにとらえられたが、現在は航空機と比してCO2エミッションが少ない事や省エネと言う事でポジティブにとらえられている。高速鉄道の燃費は1座席当りの重量で決まる。N700型車両は0.54トン/座席であるが、海外の車両(TGV、ICU、ユーロスターなど)は新幹線の倍以上の重量になっている。

 次に地震対策については小牧の研究施設において世界に1台しか無い「車両走行装置」を用いて研究している。この装置は下部にレールに相当する円盤(軌条輪)を回転させ、その上に壊れかけた台車などを置いて試験できるものであり、どのような振動や熱が発生するかなどを観察できる。又、地震に関しては上下左右に軌条輪を可動させることにより中越地震(震度6)を完全に再現できる。左右の可動幅は300mmあり1300Galを発生する。この装置のお陰でロッキングと言う車両が脱線に至る特殊な現象が初めて観察出来た。これにより脱線防止ガードが考案され現在静岡県内を中心に設置工事が進められている。このガードは在来線の物とは違い、ガードが内側に倒れるような構造となっておりメンテナンスの為のクリアランスが確保出来るよう工夫されている。

 最後に鉄道構造物の大規模改修であるが、これも小牧研究施設において品川駅開業時に品川に在った実物の鉄橋を移設して構造体の経年劣化の進み具合とその最適な改修方法を研究してきた。本年度から10年掛けて車両を止めずに構造体の大規模改修に入る。

 現在の新幹線については、ほぼ技術開発ではサチュレートしている。そこで東海道新幹線の収益で子供達の為に、新幹線に代わるものとして、又はバイパスとして、そしてもっと優れたものを作ろうと言うことで超伝導リニア新幹線が開発されてきた。現在の鉄道車両においては最高速度に達するまでの時間が長く掛かるので最高速度を競う事はもはや意味を持た無くなってきた。(駅間が短いと最高速度まで出せない)その点リニアはアッと言う間に最高速度に到達する事が出来る。又、整備新幹線として予算化すると着工までの順番が遅くなりいつ出来るか分からないので、全て自前の予算でやることにした。いよいよ来年度本線工事を着工する。全て完成すると東京—大阪間を1時間強で結び、6500万人が一つの都市圏に住むと言う誰もやったことの無いプロジェクトである。波及効果も計り知れないと思う。ご期待ください。