東海科学機器協会の会報

No.377 2021 新年号

曜日に因んだテーマでおくる1週間のサイエンスリレー

曜日に因んだテーマでおくる 日・月・火・水・木・金・土
土から生まれる電気絶縁用碍子
ヤマキ電器株式会社 技術開発部 部長 小野田 茂

〇はじめに
 「土」という言葉を連想すると何が思い出されますか?
 定義づけることは非常に難しいと思います。その理由は、それぞれの専門分野ごとに用語の意
味がことなり統一することに困難があるためです。たとえば、農業の方は、畑の土、土壌改良等を連
想されると思います。建築関係の方は、残土とか、地盤に対する地耐力を想像されるかもしれませ
んね。
 今回は、土を原料とした窯業に目を向けようと思います。土の中には、1000℃以上で焼き固める
と非常に硬くなる鉱物があります。今回はこの鉱物を原料とする陶磁器のなかで碍子の生産を例
に話を進めたいと思います。〇土を精製して原料を作る 陶磁器は、クラーク数の大きな元素で構成さ
れるケイ酸塩鉱物が原料です。鉱山で採掘したケイ酸塩鉱物は、単一鉱物で採鉱されることはなく
品質安定のため精製工程が加えられます。陶磁器の種類により、必要とするケイ酸塩鉱物は違い
ますが、陶石、長石、粘土と呼ばれる鉱物が主体です。
 陶石とは、主な構成鉱物が石英、セリサイト、カオリナイトであり、微粉砕すると粘性が出てきて単
味で成形が可能です。福島県、愛媛県、佐賀県、熊本県で産出されます。長石は、カリウム、ナトリウ
ムを含みシリカや粘土をかなり溶かし込み、ガラス質を生成して反応を進める融剤です。福島県、
島根県、岐阜県、愛知県などに産出します。粘土は、岩石の風化作用や堆積作用、熱水作用を受
けて生成するため、種類と性質はさまざまです。陶磁器の原料に可塑性を付与する目的で使用され
ます。碍子の原料に使われる蛙目粘土を一例にしますと構成鉱物は、石英、カオリナイト、少量の雲
母鉱物と長石から出来ています。愛知県 岐阜県、三重県などで産出します。
 ケイ酸塩鉱物は、製品に合わせた化学組成になるように配合操作を行い、粉砕により粒度分布
をコントロールして原料になります。碍子原料の配合比と粒度を見ますとおおむね、陶石が40%、長
石32%、粘土28%、平均粒径約10μmです。
〇土から形を作る(成形)
 原料から所定の形状を作る工程を成形と言います。成形方法には、鋳込み成形、塑性成形、加
圧成形、射出成形等に分かれますが、今回は碍子の鋳込み成形を見ることにします。
 鋳込み成形は、ケーキと呼ばれる原料に水と分散剤を加えて流動性のあるスラリーを作り、鋳型となる多孔質型に流し込んで多孔質の吸水性を利用して成形する方法です。多孔質型は一般
的にセッコウが使用されます。
 成形のポイントは、流動性とクラックが発生しない可塑性のあるスラリーを作ることです。昔は可
塑性を高めるため、動物の血や肉、尿を原料に加えて1年以上「ねかす」事が行われていたそう
です。原料(天然の土)に含まれる好気性・嫌気性バクテリア、糸状菌の発酵を促進させて、粘土中
の腐植酸や有機物の分解、微生物が生成する多糖類により可塑性が向上すると考えられていま
す。もちろん、現在はそのようなことは行わず、界面活性剤、有機高分子剤などを使用して分散・可塑
性の調整を行います。現代の「ねかす」は、粒子の湿潤、粒子表面活性の安定化等、物理的な問題
解決のため、48時間以上エージングを行ないます。
 成形した製品中の水分率が12%迄は、水分蒸発の収縮でクラックが入りやすく、48時間かけて収縮スピードをコントロールします。その後、80℃の熱風で乾燥処理を行い、製品の使用目的に合わせた表面加工を行います。  

〇土を焼き固める(焼成)
 焼成炉で熱エネルギーを成形体に加えて焼き固めます。原料は種々のケイ酸塩混合物であるた
め単一成分の熱化学変化よりはるかに複雑です。たとえば、粘土は900℃以上でスピネルが生
成され、980℃程度からムライトの生成が始まります。石英は573℃でα?β転移における熱膨張
収縮が発生、長石は1200℃程度でガラス溶融物

となりカオリン分解生成物を取り込んでムライト組成の融液となります。外観に表れる大きな変化は
収縮です。碍子の場合、全収縮率11%のうち8%が焼成で発生するため潜在的な欠陥が発生しや
すい工程です。碍子は最高焼成温度、1300~1340℃で焼き固めます。
 焼き固めたものをミクロの世界で見てみましょう。焼成で生成したガラス質をフッ酸で溶かして電子顕微鏡で観察すると繊維状のものが見えます。これは針状ムライトの結晶です。ケイ酸塩鉱物の
陶石、長石、粘土を焼き固めると、ガラスの中にビッシリと針状ムライトが繊維のように張り巡らされ
た構造になります。ガラス繊維強化プラスチック(FRP)と同じ構造です。磁器は叩くとガラスに
似た高い音を出します。しかし、ホウケイ酸ガラスの曲げ強度が40MPaに対して磁器の曲げ強度
は90MPaに達します。
〇まとめ
 いかがでしたか?「土から生まれる電気絶縁用碍子」のイメージがわきましたか?
 ケイ酸塩鉱物の陶石、長石、粘土を原料にして形を作り、1000℃以上で焼き固めると、繊維強化
プラスチックに類似した構造を持つ高強度な製品が出来上がることが判っていただけたと思いま
す。身近なものでは、食器も同じような製法で作られています。この素晴らしいケイ酸塩鉱物たちは限
られた天然資源です。私たち窯業メーカは、次の世代に引き渡すことができるように有効利用を進
めていきたいものです。
10_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-8_4c
10_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-1_4c
10_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-5_4c
10_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-7_4c
10_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-3_4c
11_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-13
11_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-9_4c
11_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-10_4c
11_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-11_4c
11_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-12_4c
11_1e980b1e99693e381aee7a791e5ada6e3808ce59c9fe3808de38080-14_4c