東海科学機器協会の会報

No.292 2002 秋号

[かきゃ~あんたも ] 台湾で思った事

(株)ヤガミ 八神 基


8-16 ここ数年前から、“中国”と言うと大陸の中華人民共和国の方が話題に上る事が多い。その人件費の安さから生産拠点としての利点を追求する余り、わが国経済のデフレ誘引の一因を作り、自縄自縛に陥っている感があります。確かに中国は経済成長率を一つ例にとってみても、その値は7%前後と高いし、WTOへの加盟、2008年の北京オリンピック開催など、成長へと驀進しているイメージがありますが、国の成り立ちから7%位の成長がないと失速する弱点を本質的に抱えているし、一党独裁の強権政治、軍の専横、模倣による製造技術、銀行の巨額な不良債権の存在など、砂の上に立っている脆さをともすると忘れがちです。
 先頃、仕事で台湾へ出向くことがありました。ここ数年、大陸の方へはよく足を運びましたが、大陸中国と台湾を見比べられるよい機会と思い、僅か3日間でしたが、台北へ10年ぶりに行ってきました。
 それこそ10年も前なら日本語を話すことの出来る年齢層の人たちが社会の第一線で活躍していましたが、今ではもうその殆どがリタイヤーしてしまっています。幸い私は中国語(大陸では普通語、台湾では国語といわれている北京周辺の標準語)が少しできますので、ビジネスでの遣り取りを離れた、どうでもいい話では意思の疎通が可能ですが、大事なビジネスに絡む話では英語を用いるしかありません。じゃ、先方は英語ができるのか?ですが、チョットした会社(メーカー)のトップ級の人たちは話せないと勤まりません。自社製品の開発.企画段階から台湾国内ではなく、海外市場へ目を向けているので、英語で遣り取りすることは絶対条件です。今回訪問したメーカーは2社ですが、1社の社長と製造部長は商談でタイからベトナムを廻って前日帰ってきたばかり、もう1社の社長は1カ月前にブラジルへ出展で出向いて行った由。それぞれ、社員70名と30名程度の規模ですが、これだけ、ワールドワイドに出かける同程度の会社は日本では少ないでしょう。まさにドルベースで勝負している実態を肌で感じる事ができました。勿論彼らも大陸中国を市場として視野に入れてはいますが、非常に警戒心が強く、1社単独での進出は危険と見ていて、共同でとの申し出すらありました。
 台湾はアメリカの“台湾関係法”に護られながら、ますます巨大になってくる大陸の政治と経済の力に対抗して、日本、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム、インド等のアジア、ヨーロッパ諸国、南北アメリカとのパイプを切らせないよう、詰まらせないよう、いかに国を立ち行かせるか必死です。幸い台湾経済は上向いてきていて、街を見ても、ある部分では溢れるばかりの緑の中に落ち着いた風情を湛え、別の部分では弾けるような活気に満ちていました。
 最後に大陸中国と比較して以下のように感じました。
1.ビジネスマンとしてずっと洗練されていて、 仕事もフェアーで安心できる。
2.街中では警官、軍人などの制服組が目立たず、 威圧感がなく落ち着く。
3.海外からの来訪者と接するのに、妙な対抗心 とか、その裏返しの卑下するような態度が見 られず、自然体で振舞える余裕が感じられる。
4.これが肝心ですが、日本嫌いの雰囲気を嗅ぎ 取る場面がない(大陸では日本人は東洋鬼と 称される)。
 大陸の中国へ中国へとなびく風潮を今一度見直して、政治的経済的にアメリカを少しは見習って、中国―台湾と等距離の付き合いに心がけることが、アジアでの日本の立場を高め、強くすることになるのではないかと再確認した今回の旅行でした。