東海科学機器協会の会報

No.330 2010 春号

〔会員だより〕自己研鑽(寺内町散策)


アズワン㈱名古屋支店 小林浩幸


11-22

 三重県の県庁所在地である津市の中心、やや北部に「一身田」という町があります。
 この町は寺を中心に栄えた「寺内町」として有名であり、また重要文化財に指定され三重県下最大の木造建築物である「高田本山専修寺」があることから、歴史探索の観光地としての側面も有しております。
 私はここで生まれ育ったのですが、就職・転勤等で生活拠点が変わってしまった為、この地を歩き回ることは無くなっていました。仕事柄近くを通ることもあるのですが、時間を割いてノスタルジーに耽るきっかけがありませんでした。
 そんな中、「会員だより」への寄稿のお話をいただき、何を書けば良いのやらと思案していた際に、ふと、かの地のことを思い出し、『この機会に久しぶりに歩いてみよう。』ということで休日を利用して行ってまいりました。
 一身田町は古くは弥生時代からその地に集落があったそうですが、室町時代に親鸞が開祖である浄土真宗の高田派本山「専修寺」が建立されて以降、その寺を中心に栄えました。
 戦国時代には寺を中心として町の周囲に環濠(環状のお堀・溝)が作られ、外部との接触に制限が設けられた典型的な寺内町を形成するに至りましたが、この環濠はほぼ当時のまま残されており、全国でもここまで残っているところは殆ど無いそうです。
11-12
 明治時代になると寺内町という組織形態は解体されてしまい、専修寺周辺と環濠以外は寺内町としての建造物はほとんど残されていないのですが、町全体のスケールは当時のままのような気がします。路地や家の区画は寺内町であった当時のそれとほとんど同じであり、道路も当時の街道・筋・通を元に作られ現在も大きな変化は無いそうです。それ故に道は狭く車での対面通行は出来ないのではないか、という道も多く存在します。
 ただ、歩いてみると、コンビニひとつ無い静かな町並みは子供の頃と変わっておらず、派手なネオンの無い町並みは凛とした感じを漂わせます。また小中学校やそこまでの通学路も当時と何ら変わり無く、「昭和」の時代がそのまま残されているような感じがしました。
 自分の視点は子供の頃とは変わりましたが、この町は当時と変わらぬ姿を残しており、懐かしさと不思議な感覚を覚えました。
 最近は仏像や戦国武将といった歴史ブームになっておりますが、自分自身の歴史をリアルに探索してみるのも良いのではないでしょうか。きっと何かしらの『温故知新』に出合えると思います。