東海科学機器協会の会報

No.335 2011 春号

〔3/19 科学館オープン記念 特別投稿!〕 世界一のプラネタリウムを造る


世界一のプラネタリウムを造る

名古屋市科学館 学芸課 天文係長 野田 学


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 今回の特別投稿は、名古屋市科学館の野田さんにお願いしました。
 野田さんは、名古屋市にお生まれになり、京都大学物理学部卒業後、名古屋大学の大学院で宇宙物理学を専攻され理学博士号を取得されました。その後、名古屋市の工業研究所に4年間勤務された後、名古屋市科学館の学芸員となられました。現在、天文係長を務めておられます。
 名古屋市科学館が世界最大のプラネタリウムと魅力ある4つの大型展示で3月19日にオープンします。新しくなった科学館とプラネタリウムの魅力についてお話していただきます。


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 名古屋市科学館は、昭和37年に建てられてから約50年になります。このほど新館が完成し、3月19日にオープンします。4つの大型展示と世界最大の35mプラネタリウムが特徴です。
 科学館は、理工館、天文館、生命館の三つで成り立っていました。これらの古い建物を全部取り壊して、新しい建物を建てると数年間は閉館しなければなりません。しかし科学館は、小学生など多くの子供たちの学習の場 になっていて長期間の閉館はできませんので、科学館の北側の駐車場に新しい建物を建て、その後に古い建物を取り壊して閉館期間を約半年間に短縮しました。
 最終的には大きな球体の下を通って白川公園の方へ通り抜けられるようになります。古い建物があった場所は新たな屋外展示場にします。ここにはH-ⅡBロケットをJAXAから借りて展示します。このロケットの胴体の一部分をウォークスルーにして通り抜けができるように工夫して、ロケットの中がどうなっいるか、その大きさも間近に見て体験することができるようにする計画です。国際宇宙ステーションの実験モジュール・きぼうのプロトタイプも展示します。

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 昔ながらの生命館はそのまま残ります。新館では、基本的に下の階から上の階へ小さなお子様から大人まで楽しめるようにレベルを順番に変えております。そして、上の方に上がってくると科学の最先端の展示になっています。
 そうした展示物の中に目玉になる4つの大型展示コーナー(水のひろば、竜巻ラボ、放電ラボ、極寒ラボ)が設けられています。特に大きなものは1フロアーでは収まりきらないので、2フロアー分で展示しています。

①水のひろば
子供たちが水遊びをしながら科学の原理を学べるように工夫。

②竜巻ラボ
人口竜巻発生装置で9メートルの高さの竜巻(日本一の大きさ)を発生させ、竜巻の中に入って体験することができる。

③放電ラボ
120万ボルトの巨大な放電体験装置で、光だけでなく放電の時の音や目の前に雷が落ちる様子を安全に観察るできる。

④極寒ラボ
マイナス30度の部屋で全天周にオーロラの映像を映し出し、極地の生活や自然現象を体験。

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こうした展示によって自然界にある様々な現象を科学館の中で再現し、自然のダイナミックさを体験できるようにと考えています。
星空、宇宙というのは我々に尽きない興味を与えてくれますが、都会では星空を見上げる機会も少なくなりがちです。そういった部分をプラネタリウムで楽しんでいただき、時には本物の星空を見上げてほしいという思いを込めて新しいプラネタリウムを設計しました。

プラネタリウムで終わりではなく、
家に帰って星空を見上げてほしい。

 今までのプラネタリウムのドームは直径が20mでしたが、新しく完成したものは35mです。この球体の上半分がプラネタリウムで、下には天文に関する展示室やサイエンスショーのステージ等が設けられています。

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 では何故そのような大きなプラネタリウムを作ったのか。来館された子供さんや皆さんが、プラネタリウムを体験して、楽しかったとか綺麗だったという感想で終わりではなく、そういう宇宙が自分たちの頭上に広がっていることを実感し、夜外に出て実際に星空を見上げてほしいといつも願っているからです。そしてプラネタリウムで星の名前や位置を覚え、実際の夜空を見上げてその星を見つけてほいのです。ですから、プラネタリウムは限りなく本物に近い星空を再現するべきであると考えています。

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 その中で一番大きなポイントになるのが空の大きさです。50mドームとか40mドームを考えたこともありましたが、科学館の工事工程や空間的な制約の中で最大限大きなドームを実現しようとすると、35mが限界でした。その後、このドームが世界で一番大きいことが分かり、「世界最大の35mプラネタリウムドーム」という言い方をしていますが、最初から世界一をねらったわけではありません。
 そして、ドームの床は水平でなければならないというのが我々の持論です。折角大きなドームを作るのなら、その中で講演会ができたり、映像ホールとして利用できるとか、多目的に利用できるようにしようという考え方があります。しかし、そうすると観客は同じ方向を向いて座り、座席は後方ほど高くして階段状に傾斜をつけたほうが望ましいということになります。こうした「傾斜ドーム」でのプラネタリウムでは季節による太陽の高さの違いとか、沈む場所の違い、北極星の高さなどが正しく表現されません。ですから、プラネタリウムの本来の機能を生かすために科学館のドームは、「水平ドーム」になっています。

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 今まで科学館のプラネタリウムで使っていた投影機は、ドイツのカール・ツアイス社のⅣ型と呼ばれるものでした。今回、新しく導入された投影機は同じくカール・ツアイス社製のⅨ型になります。Ⅳ型からⅨ型では機械制御から複雑な動きのコンピュータ制御になり、太陽や月、惑星が何時何分にどこの位置にあるかを計算し、その位置に投影することができます。これにより足元のところに太陽、月、惑星の投影機を、独立して並べることができ、全体的にきわめてコンパクトになっており、観客が見上げる星空を投影機が遮ることがなくなりました。
 このプラネタリウムでは6.2等星まで、約9千個の星を投影できるようになっています。その星を投影する場合、昔のⅣ型の投影機では、真ん中の電球から出た光が恒星原板という板に当たり、そこにあけられた穴から光が通り抜けてドームに像が映ったわけです。その場合、明るい星にするためには穴を大きくせざるを得ないわけで、従来のプラネタリウムでは、明るい星たちはちょっと大き目でボッタリとした感じでした。実際には、明るい星が大きいわけではありません。最新鋭のⅨ型は光ファイバーを使っていますので、シャープな感じの鋭く輝く星をドームに投影することができます。こういう技術を使うことにより実際の星空と同じような雰囲気で見ていただくことができるわけです。

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 また、座席についても、今までは20mドームに430席でした。新しい35mドームでは350席に減らし、椅子の間隔に余裕を持たせました。更に、椅子は左右に30度ずつ回るようにしてあり、空を見るのが非常に楽になりました。そしてもう一つの目玉は、全天を覆う動画です。星を映すだけでなく、ビデオプロジェクターを6台配置して、全天を覆う映像が投影できます。例えばドームの真ん中に地球を映せば、我々は宇宙空間へ飛び出したことになります。そこから太陽系の惑星の間をすり抜けて銀河系が見えるところまで、というような宇宙旅行が可能になります。コンピュータには最新の観測で得られたデータが入っています。そういったものを上手く総合することによって最新の宇宙の姿を再現することができます。

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突き詰めれば
突き詰めるほど
宇宙って面白い!

 3月19日のオープンに先立って先日一般モニターの募集をしたところ20倍近い応募があり、皆様の期待の大きさを実感しています。オープン当初は混雑が予想されますので、余裕を持って5月〜6月頃にご来館いただけるとありがたいと思っています。

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